「間」の空間
阪神間の市街地にあり、北側には遠く六甲山の山並みを望み、また、幹線道路の交差点から近い視認性の高い場所に建つ、事務所と店舗のための建築の計画です。
計画の基本とするのは、「都市と建築の間に適度な距離感をもたらす『間』の空間をつくる」という主題。各階のボリュームをずらすことで、軒のある縁側のような半屋外のスペースをつくり、都市と建築のバッファーゾーンとしました。この緩衝空間は、視線をコントロールしながら、日射を遮り自然も柔らかく制御しています。この閉じながらも開放感のある空間により、建築が都市とゆるやかにつながることを目指しています。
まず建物の配置は、道路側と敷地北側の各々から5mほどセットバックさせ、緑地と駐車スペースからなる広場を設けました。広場と1階の店舗の間には、2階のボリュームをキャンティレバーで跳ね出すことで、ピロティスペースをつくっています。2階には外周部に沿ってテラスを配置し、テラスを囲む外壁の一部をレンガのスクリーンとしています。レンガのスクリーンは、外から内部の様子は窺い知れませんが、内部からは外の様子が感じられ、適度な開放感をもたらしながら光と風を呼び込んでいます。3階の外壁面は、2階壁面から大きくセットバックさせ、2階の外壁から立ち上がる手摺壁に囲まれた奥行の広いテラス空間としました。4階のボリュームは、3階から跳ね出し、下階のテラスに軒のある空間をつくっています。4階の道路側のガラススクリーンの外側にも、レンガのスクリーンを配置して緩衝空間としました。敷地境界から奥まった北側のバルコニーは、開放的なものとして山への眺望を確保しています。
フラットな「面」で空間を囲む
「間」の空間を介しながら、開放感の高い北・東側の2方向に対して大きく開いた空間構成とするため、南・西側の2面に耐震要素を集約しました。柱を耐震壁と同厚にして柱型のないフラットな「面」をつくり、全体の空間を構成しています。敷地境界にも適度な高さの壁面を立てることで、軒下の空間とともに「面」で囲まれた半外部の空間をつくっています。
建物中央の柱は鋼管柱として部材断面を小さくして存在感を抑え、3階からR階の床にはボイドスラブを用い、フラットな無梁構造とすることで階高を抑えています。
風を感じるインテリア
開放的な居室空間に対して、耐震壁に囲まれたコアスペースには、スリット窓とトップライトから柔らかい光をいれています。スリット窓には、明かりとりの窓に風をとりいれる窓を併設し、トップライトにも換気口を設けて風の流れを生み出しています。
階段室は、コンパクトでありながら、廊下と一体感のある広がりをもっており、水平方向に視線がのびる居室空間に対して、垂直方向の上昇感の感じられるコアスペースとなっています。
ハンドメイドの素材感
外壁のタイルとレンガは、ハンドメイドでつくられ、表面には一つ一つ異なったテクスチャがあり、奥深い風合いを出しています。白い壁面は、骨材入りセメント系仕上材のはつり仕上げで、ざらついた粗いテクスチャは、光の印影を生んでいます。職工の手の痕跡は素材感を際だたせ、見る人の触覚を刺激しています。
光に浮かび上がるボリューム
「間」の空間の床面には照明を配置し、各階の跳ね出した面を光で照らし出すことで、ボリュームを浮かび上がらせました。レンガスクリーンの足元にも照明を設置して、夜には行灯のように光が漏れ出すようにしています。
象徴的なイメージの建築が、街の活性化につながればと願っています。
[久武正明建築設計事務所 久武正明]